誇り高い個人タクシー

近場ですが初めて行く場所にタクシーで出向きました。
タクシーなんて久しく乗っていなかったのですが、血糖値も下がっちゃってることだし(適当に考えた)ちょっと面倒で乗ってしまいました。
乗って行き先を告げると運転手さんが考え込むので、地図を差し出すといや判るから、と断られました。
「もう全部記憶してるから」
と、個人タクシーの試験がどれだけ地図を覚えなければならないかについて語り始めました。
彼はものすごく誇りを持っている運転手さんだったのです。
銀行を勤めあげ、やめてから自分はプライドを持ってこの仕事に就いたのである。
地図を覚えるなどという簡単なことができないはずはないのであるとかそんな話です。
そしてナビを指さしこれも純正を買えと頼まれたが純正高いし自分はそんなものに頼ったことがない。
義理があるので付けただけであると打ち明けてくれました。
私は相槌を打ちながらも近場だからすぐ着いちゃうと思うけどこんなに力強く語っているのにどうやって腰を折ればよいのかと考えていました。
後を振り向いて(いや信号待ちで)こちらを真っ直ぐ見据えながら自分がどんな人間であるか、この仕事をどう思っているかを語られたときは降りたくなってきました。
だってタクシーに乗ってそんな真剣な問いかけをされるとは。
しかも目的地すぐそこ。
どうしようと思いつつ運転手さんを持ち上げる発言をしていましたら、彼は私を遮って
「もう着きますよ」
と言ってくれました。
流石だ運転手さん。
彼はこの仕事を軽く見ている人は自分を運ちゃんと呼ぶのだと言っていました。
だから客は選ばせてもらうとも。
散々いやな思いをしてきっと自分を励ましているのでしょう。
実際技術も高い上に誇り高く真面目に生きている方だと思います。
ただそんないい話をするのは遠乗りの客の時がよろしいかと。
だって絶対近場の客は困るから。